
「これ、任せるね」
そう言って部下やスタッフに仕事を渡したとき、自分の中では「1から10までしっかり任せたつもり」でした。
それなのに、気づいたときには想定していたものとは違う形で進んでいて、結局あとから自分が手直しすることになり、余計に時間がかかってしまった……。
そんな経験はありませんか?
以前の私は、仕事を任せるなら、途中で余計な口を出さずに最後までやってもらうことが大切だと思っていました。
でも実際には、ただ手を出さなければいいわけではありませんでした。
仕事を任せたのにズレるときは、相手の能力だけではなく、「何をどこまで任せたのか」という認識が揃っていないことがあります。
目的は何か。どんな状態になれば完成なのか。どこまで自分で判断していいのか。そして、どの段階で一度確認するのか。
こうした部分が曖昧なまま「任せるね」と仕事を渡すと、任せる側と任される側で違うゴールを見ながら進んでしまうことがあります。
今回は、私がまだ店長ではなかった頃の経験や、スタッフにPOP作成を任せたときの失敗をもとに、丸投げにも過干渉にもならない仕事の任せ方について考えてみます。
この記事でわかること
- 仕事を任せても思った通りに進まない理由
- 「任せる」と「丸投げ」の違い
- 仕事を任せる前に共有しておきたいこと
- 途中確認と過干渉の違い
- 相手の経験に合わせて任せる範囲を広げる考え方
仕事を任せるとズレるのは「任せる範囲」が曖昧だから
「任せたはずなのに、なぜかうまく進まない」ということを考えていたとき、私がまだ店長ではなかった頃の出来事を思い出しました。
当時、店長から、
「ここ任せるね」
とよく言われていました。
でも、今振り返ってみると、それは最初から最後までを任されていたわけではありません。
ある程度までは店長が進めていて、私に渡されるのは最後の仕上げの部分だけということがありました。
私はその部分しか経験していないので、それ以前にどんな判断をして、なぜその形になったのかまでは分かりません。
それなのに、あとから「前に教えただろ」と言われても、全体の流れを知らない状態では分からないことがあります。
任されたつもりではいても、実際には作業の一部だけを渡されながら、全体まで理解していることを求められていたのだと思います。
店長という立場になった今では、逆に自分が同じことをしてしまう可能性があります。
「ここまで分かっているだろう」
「前に見ているからできるだろう」
そう思って説明を省き、その結果だけを求めてしまう。
仕事を任せることは、説明を省くことではありません。
全部のやり方を細かく指示する必要はなくても、その仕事の全体像や目的、本人が判断していい範囲が分からなければ、任された側もどこまで自分で進めていいのか迷います。
「任せる」という言葉自体が曖昧だからこそ、最初にその範囲を合わせておく必要があるのだと思うようになりました。
あわせて読みたい
同じ説明をしても、相手の経験や前提によって違う結果になることがあります。「伝えた」と「伝わった」のズレについてはこちらで書いています。
仕事を任せる前に合わせておきたい5つのこと
では、仕事を任せるときに何を伝えておけばいいのか。
私が今、意識したいと思っているのは次の5つです。
任せる前に確認しておきたいこと
- 目的|何のためにする仕事なのか
- 完成した状態|どうなっていればOKなのか
- 期限|いつまでに終わればいいのか
- 任せる範囲|どこまで自分で決めていいのか
- 確認するタイミング|どの段階で一度相談・確認するのか
すべての仕事で毎回5項目を一つずつ説明する、という意味ではありません。
仕事の内容や相手の経験によって、省けるところもあります。
ただ、「任せるね」の一言だけでは見えない部分を、必要に応じて最初に共有しておく。
それだけでも、任された側は判断しやすくなります。
特に大切だと感じたのが、「どんな状態なら完成なのか」と「どこまで自分で決めていいのか」です。
そのことに気づいたのが、実際にスタッフへPOP作成を任せたときでした。
POP作成の失敗で気づいた、意図とアウトプットのズレ
夏の時期に、ラムネと塩分チャージのPOP作成を同僚に任せたことがあります。
普段から私がPOPを作っているところを見ていたので、「いつも見ているから大丈夫だろう」と思い、
「ここは任せるね」
と伝えてお願いしました。
ところが、出来上がったPOPを見ると、なぜか「暑い」という文字が一番大きく、目立つ色で書かれていました。
私がそのPOPで一番伝えたかったのは、「塩分と水分チャージ」です。
「暑い」は、それを伝えるための背景の言葉というつもりでした。
そこで本人に、
「どこが一番大事だと思った?」
と聞いてみました。
すると返ってきたのは、ちゃんと、
「塩分と水分チャージです」
という答えでした。
ここが、私にとってかなり大きな気づきでした。
何を伝えたいPOPなのかは理解していたのに、完成したものでは優先順位が逆になっていたのです。
つまり、単純に「目的が伝わっていなかった」という話ではありませんでした。
頭の中では主役を理解していても、それを形にするときに、こちらと同じ優先順位になるとは限りません。
目的を理解していることと、完成形の基準まで一致していることは別。
このPOPの失敗で、それに気づきました。
もし今、同じPOPを任せるなら、私はたとえば、
「一番目立たせたいのは『塩分・水分チャージ』。『暑い』は補助的な言葉にしたい。色や配置、イラストは任せるね」
という伝え方をします。
これなら、全部のデザインをこちらが指定するわけではありません。
合わせておきたい部分は合わせる。でも、任せる部分は本人に任せる。
この境界を最初に決めておけば、「任せたはずなのに全部こちらの指定通り」という状態にもなりにくくなります。
POPなら、こんなふうに分けられます
合わせる部分:一番伝えたいこと、必ず入れる内容、完成の期限
任せる部分:色、配置、イラストなどの表現方法
仕事によって「合わせる部分」と「任せる部分」は変わります。
大事なのは、全部を指示することでも、全部を自由にすることでもなく、どこまでを任せるのかをお互いに分かる状態にすることだと思っています。
あわせて読みたい
「販売期限の近い方を右で」と伝えたのに、私が思っていた並び方とは違っていたことがあります。自分の中の前提を省いてしまった実体験はこちらです。
「途中確認」と「途中で口を出す」は違う
以前の私は、「任せる」と決めたなら、途中で口を出さず最後まで任せた方がいいと思っていました。
確かに、任せたあとで思いつくたびに、
「やっぱりこっちにして」
「そのやり方じゃなくて、私はこうする」
と自分のやり方へ変えていけば、任された側は迷います。
「任せると言われたけれど、結局どこまで自分で決めていいの?」となってしまいます。
でも、だからといって、完成するまで何も確認しない方がいいわけでもありません。
途中で勝手にやり方を変えることと、最初から決めておいたタイミングで確認することは別です。
たとえばPOPなら、最初に、
「大まかなラフができたら、一度見せて」
と伝えておくことができます。
ラフの段階で主役が合っていることを確認できれば、その後のデザインは任せられます。
反対に、最初から何も確認せず、完成したあとで「全部違う」となれば、本人も作り直しになり、こちらも確認や修正に時間がかかります。
だから今は、「口を出さないこと」が任せることなのではなく、必要な確認ポイントを最初に決めて、その間は本人に任せるという考え方の方が近いと感じています。
任せる範囲は少しずつ広げていく
任せ方は、相手がその仕事を初めてするのか、何度も経験しているのかによっても変わります。
誰に対しても同じように細かく説明すればいいわけではありません。
初めてする仕事なら、目的や完成の基準だけでなく、手順まで一緒に確認した方がいいことがあります。
何度か経験して流れが分かってきたら、細かいやり方まで指定せず、ゴールと守ってほしいルールだけを共有して方法は任せる。
さらに一人で判断できるようになれば、途中の確認を減らし、結果の確認だけで済む仕事も増えていきます。
| 相手の状態 | 任せ方の目安 |
|---|---|
| 初めてする仕事 | 目的・完成基準・手順まで一緒に確認する |
| 少し慣れてきた | ゴールとルールを共有し、やり方は少しずつ任せる |
| 一人でできる | 本人の判断に任せ、必要な結果確認を中心にする |
この感覚は、自転車の練習に少し似ています。
最初から一人で乗れる人ばかりではありません。
初めは後ろを支え、乗り方を覚えてきたら支える力を弱くして、少しずつ手を離していきます。
ずっと後ろを持ち続けていれば一人では乗れませんが、まだ乗れない段階で急に手を離せば転んでしまいます。
支える量を、その人の状態に合わせて変えていく。
仕事を任せるときも、それに近いものがあると思っています。
仕上がりが違っても、黙って直さない
もう一つ、私が意識していることがあります。
任せた仕事が、自分の考えていた仕上がりと違っていたときです。
時間がないと、
「自分で直した方が早い」
と思うことがあります。
実際、その方がその場では早いこともあります。
でも、何も言わずにこちらで直してしまえば、本人はどこが違っていたのか分からないままです。
そのため私は、時間があるなら、どこがズレたのかを一緒に確認して直します。
時間がなくて自分で直す場合でも、
「ここをこう直していい?」
と本人に確認するようにしています。
完成したものをこちらの好みに黙って変えるのではなく、何を直したのかを本人にも分かる状態にするためです。
その経験があれば、次に同じ仕事を任せたときの判断材料になります。
「任せられる状態」は、一度仕事を渡しただけで出来上がるものではありません。
任せる、確認する、ズレがあれば一緒に直す。そして次は、前より少し広い範囲を任せる。
そうやって少しずつ、一人でできる範囲が増えていくのだと思います。
まとめ|任せるのは、仕事を渡して終わりではない
「任せる」という言葉は、思っている以上に曖昧です。
任せる側は全部お願いしたつもりでも、任された側には全体像が見えていないことがあります。
反対に、「任せる」と言ったあとで何度も自分のやり方へ変えてしまえば、本人が判断できる範囲も分からなくなります。
だからこそ、仕事を任せる前に、
- 何のためにするのか
- どんな状態なら完成なのか
- いつまでなのか
- どこまで自分で判断していいのか
- どの段階で確認するのか
を必要に応じて合わせておく。
そのうえで、任せた範囲については本人に考えてもらう。
全部を任せるか、全部を指示するかではなく、
どこを合わせて、どこを任せるかを決める。
私自身も、POPを任せたときのように、「分かっているはず」と思って仕事を渡してしまったことがあります。
でも、目的を理解していることと、同じ完成形を思い描いていることは別でした。
任せる相手の経験に合わせて支える量を変えながら、できる範囲を少しずつ広げていく。
そして、任せる前に「何を合わせて、どこから先を任せるのか」を決めておく。
その線引きができると、任せる側も任される側も、途中で迷いにくくなります。
「任せたのに思った通りに進まない」と感じたときは、相手だけを見るのではなく、まず自分がどこまで共有して、どこまで任せたのかを振り返ってみるようにしています。




